スープのある時間に読みたい本|SOUP&BOOKS vol.01

SOUP&BOOKS
スープのある時間に読みたい本。
スープのように、あたたかくてやわらかな
読書の時間がある。
そんな想いから今回、
ブックディレクションや編集を手がける
〈ORDINARY BOOKS〉の
三條陽平さんに、
「スープ」をテーマにした本を選んでもらいました。
本企画は全4回。
毎回ひとつのテーマをもとに、「スープのように心を満たす本」を紹介していきます。
まずは、この企画のはじまりに三條さんが語ってくれた言葉から。
スープについてあらためて考えてみると、曖昧で不思議なものが浮かび上がってきました。
お腹をしっかり満たしてくれるごちそうでありながら、コーヒーのように心をほっとさせてくれる飲み物であり、熱くても冷たくてもおいしく、濃厚でも、あっさりでも成立する。そんな両極端の要素を受け入れ、満足感と安心感をもたらしてくれるのがスープではないでしょうか。
社会はいつも二項対立に引き裂かれそうになっており、満足感と安心感こそ私たちに必要な感性です。世界を二分してしまいがちな私たちの思考を、ゆるやかに溶かしてくれるような存在と言えるかもしれません。
本は、正解を押しつけるものではなく、その解釈はページをめくる読み手に委ねられ、スープのように味わい方も人それぞれ違います。
スープと本。
どちらも、私たちを満たし、ほっとさせてくれる。
そんな二つを味わう時間は、暮らしをより豊かにしてくれるはずです。
スープと物語
スープが登場する本を通して、
人の暮らしや心の温度を感じてみませんか。
一杯のスープが人をつなぎ、
人生や創作の風景を映し出す、
そんな物語を2冊ご紹介します。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』
吉田篤弘/中央公論新社
物語の主人公・オーリィ君は、サンドイッチ屋「トロワ」で働きながら、さまざまな背景をもつ人々と出会っていきます。個性豊かな登場人物との温かな交流、往年の脇役映画女優・あおいさんへのほのかな恋——多様な人々との邂逅を重ねるうちに、彼は自分や周囲の人々の暮らしの中心に、いつもスープがあることに気が付きます。やがてオーリィ君は、店の看板となるオリジナルスープを考案することに。具材の選択、火加減、器が奏でる小さな音といった、スープづくりのひとつひとつの工程を丁寧に描きながら、人と人とをつなぎ、人生で本当に大切なものをそっと教えてくれる物語です。読み終えたあとには、スープのようにじんわりとした温もりが心に残ります。

『ジヴェルニーの食卓』
原田マハ/集英社
印象派を代表する芸術家・モネ、マティス、ドガ、セザンヌの創作の秘密と人生の光と影を鮮やかに描き出した短編集。表題作『ジヴェルニーの食卓』は、クロード・モネがフランス・ノルマンディー地方の田舎町ジヴェルニーに移り住んだ史実をもとに紡がれたフィクションです。キャリア晩年のモネは、自らの手で造成した「水の庭」を描き続け、後に代表作「睡蓮」シリーズとして結実させました。物語では、庭づくりに没頭する日々や、絵を描くことへの苦悩が細やかに綴られる一方、家族とともに囲む食卓の温かな光景も丁寧に描かれます。本格的なフランス料理をふるまう場面では、「ポタージュ・フォンタンジュ」をはじめとするスープの一品も登場。美食家としても知られたモネが、絵画と同じように食の豊かさを愛したことが伝わってきます。

物語の続きを、スープとともに。
物語の余韻を味わいながら飲みたい、心と体を温める2つのスープ。
北海道産「レッドビーツ」と根菜ごろごろ濃厚ボルシチ
鮮やかなビーツの赤に、とろとろのビーフ、にんじんやじゃがいもなどの根菜がごろごろ。深いコクと甘みが広がります。寒い日にじっくり読みたい物語と一緒に、心まで温まるスープ。
薬膳食材をことこと煮込んだやさしく滋養参鶏湯
生姜をきかせたスープに、国産の鶏肉と大根、たけのこ、ねぎを合わせて。やわらかな大根とシャキッとしたたけのこの食感が心地よく、高麗人参の香りがやさしく広がります。一日の終わりにゆっくり味わいたい一杯。

三條陽平
ORDINARY BOOKS代表。1987年生まれ。蔦屋書店、BACHを経て2022年独立。
公共図書館や宿泊施設、企業ライブラリーの選書やアートブックの編集を軸に活動。ブックディレクションでは岐阜県可児市の公共図書館「カニミライブ図書館」を手掛ける。
出版した書籍に宇平剛史(著)『Cosmos of Silence』、編集/執筆を手掛けた書籍に『造本設計のプロセスからたどる 小出版レーベルのブックデザインコレクション』(グラフィック社)、『Sandwich | KOHEI NAWA』(Sandwich Inc.)がある。


