ピアさんのごちそうスープができるまで|whole vol.5

ピアさんの
ごちそうスープができるまで
大切な家族や仲間が「おいしい」と言ってくれるから、
手間を惜しまず、心をこめて料理をする。
その思いが、今日もチャーミングな
笑顔の連鎖を生み出していく。
スープのある台所の風景をのぞいてきました。

採れたて野菜と
となりあわせの暮らし
ピアさんはタイ北部のパヤオ出身。大学進学を機にチェンマイへ移り、以来この街で暮らしている。チェンマイ大学マスコミ学科を卒業後、製薬会社の営業職に就いたけれど、自分の好きなことを仕事にしようと食の道へ。やがて北タイ料理の食品ブランド「メーピア」(ピアお母さん)を立ち上げた。
看板商品は、タイ北部の雨季の珍味、ヘットトープ(野生のキノコ)をたっぷり入れたチェンマイソーセージ、サイウア。毎年その季節になると、友人を呼んでヘットトープパーティーを開き、得意料理をふるまっている。
仕事に子育てに多忙な日々を送りながらも、ピアさんは市場に足を運ぶ手間を惜しまない。
「市場には季節の野菜があるし、自分の目で見て選べる。鶏肉もスーパーに並んでいるものより、市場で買う平飼いの鶏のほうが断然おいしいの」
市場に並ぶ大量の食材を前に、ピアさんはテキパキと買い物を進めていく。「ちょっと暑くなってきたから、涼んでいきましょう」といって、スーパーへ寄り道。地元っ子おすすめのアイスクリームや、子どものころから好きだというお菓子を教えてもらい、私も買ってみた。
Ⓐピアさんと待ち合わせしたのはメーヒア市場。コンパクトで見やすく、フードコートやスーパーマーケットが隣接しているのもうれしい。Ⓑタイ北部で採れるツル野菜・サレー。干し魚や豚骨でダシをとったスープでサレーを煮込む「ゲーンサレー」も北タイの郷土料理。Ⓒチェンマイは海から離れているため、魚より鶏肉や牛肉をよく食べる。Ⓓ夫と娘と3人で暮らしているピアさん。



レモングラス、花椒、唐辛子、コリアンダーシード、赤タマネギ、ニンニクを潰してペーストを作り、炒めた後、水を加えて野菜、鶏肉と煮込む。ジャンさんはマイルドにするため、特別にココナッツミルクを少し加える。ケーはハイゴショウの葉を指すタイ北部の方言。豆ナス、インゲン豆、キワタの花のおしべ、白胡蝶の花、ヤサイカラスウリなど、数種類の野菜がごろごろ入っていて食感も楽しい。

主役の野菜、パッカードは、黄色い花がちょこんと付いているので見た目はまるで菜の花。だけど、味はどこか小松菜に似ていてさっぱりおいしい。味付けはガピ、プラーラー、玉ねぎなどを潰したペーストとトゥアナオに加え、さらにピアさんはタマリンドで味を整える。タマリンドは少量でもまろやかな甘みと酸味で印象を残していく、隠れた名脇役だ。辛味がなく、飲むとほっとするスープ。


おいしさで深まる
ぐつぐつ友情物語
買い物のあとは、ピアさんの大学時代からの友人・チャーさんが暮らす一軒家へ。中心部から少し離れた静かな住宅地にあり、広い庭にブルーのキッチン小屋がある。先に到着していた年配の女性は、近所に住むピアさんのお義母さん、ジャンさんだ。料理が上手でよく教わっているのだそう。同じ北タイ出身でも地域ごとにレシピが異なるので、学びが尽きない。
この日、ピアさんが作ってくれたのは、北タイの家庭で作るゲーンケーとジョーパッカード。ゲーンケーは、鶏肉と野菜の旨辛スープ。ケーには「ごちゃまぜ」という意味もあり、これを入れるべきという決まりはなく、その時の旬の野菜で作る。唐辛子や花椒のピリリとした刺激を感じながらも、食べ続けたいおいしさだった。一方のジョーパッカードは、豚骨ベースのまろやかさが特徴のスープ。パッカードという葉野菜を煮込み、醗酵調味料のトゥアナオ、タマリンドで味を仕上げる。豚の旨み、発酵のコク、野菜の甘みがじんわり広がる滋味深い一杯だった。
あっという間に2種のスープを完成させたピアさんは、すでに次の料理に取りかかっている。家主のチャーさんは、満面のスマイルでテーブルを準備中。料理上手が腕をふるい、食べることが好きな仲間がワイワイ集う。家族と友人たちの〝おいしい笑顔〟があるから、今日もピアさんは、キッチンでその腕に磨きをかけている。


撮影:須藤敬一 ヘアメーク:kika コーディネーション:古川節子